新型コロナウイルスの感染者が1月15日に国内で初めて確認されてから間もなく5カ月を迎える。この間、見解(分析・提言)を計10回示して政府の対策や国民への意識付けに多大な影響を与えたのが、専門家会議(座長・脇田隆字(たかじ)国立感染症研究所長)だ。ただ、この組織に法的根拠はなく、存在の大きさの割に位置付けが不明瞭という指摘はついて回った。
■世の中に直接…慎重論押し切る
政府が専門家会議を設置したのは2月14日。医学的見地から助言などを行うことが目的で、設置は政府の「対策本部決定」という位置付けだ。未作成が問題となった会議の議事録がないのもこのためだ。
専門家会議は同月24日、厚生労働省で突如記者会見を開き、感染に関する初の見解を発表した。「1~2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」という内容だった。
このときの経緯について、メンバーで東大医科学研究所の武藤香織教授は4月23日、日本記者クラブ主催のオンライン記者会見で「厚労省の担当者から聞かれて答える会議の仕組みが続いたが、それでは(対策は)間に合わないと思った。世の中に直接言ったほうがいいと(政府側に)働きかけた」と語っている。
それは「大きな賭け」で、「専門家会議は組織が不安定なところにあり、世の中に信用してもらえるか分からず、記者会見に記者が来てくれるのかという不安もあった」という。政府への助言役を担う一組織が独自の見解を出すことに、政府内に慎重論もあったが、それを押し切った。
■首相ら「利用」で重み増す
その政府は専門家会議をうまく利用するようになる。安倍晋三首相は2月26日に大規模イベントの2週間自粛、27日には小中高などの臨時休校を要請。29日の記者会見で「感染拡大のスピードを抑制することは可能である。これが専門家の見解だ。専門家の意見を踏まえればあらゆる手を尽くすべきだ」と述べた。
首相が「専門家の見解」を後ろ盾にすればするほど、専門家会議の存在は重みを増し、見解が出る度にメディアは大きく扱った。
3月9日の3回目の見解では、感染が確認された場に共通する条件として(1)換気の悪い密閉空間(2)人が密集していた(3)近距離での会話や発声が行われた-の3つを挙げた。これが「3密」の原形だ。
同月19日の4回目の見解では「爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねない」と警鐘を鳴らした。オーバーシュート(爆発的患者急増)、ロックダウン(都市封鎖)という用語が出てきたのはこの時だ。その後、東京都の小池百合子知事はロックダウンという言葉を頻繁に使うようになる。
■橋渡し役に…責任の所在に問題
大型連休前には「ビデオ通話でオンライン帰省」「飲み会はオンラインで」などと呼びかけ、5月に入ると「新しい生活様式」として「大皿は避けて、料理は個々に」「名刺交換はオンライン」などと細かく実践例を提示。「箸の上げ下げまで介入してくる」などの批判が出たほどだった。
専門家会議が対策を主導し、政府と国民との間のリスクコミュニケーションの橋渡し役となったのは間違いない。ただ、外出自粛などで社会が経済的ダメージを負ったのも事実だ。法的根拠がない組織が影響力を持つことに、責任の所在という点で問題がなかったとは言い切れず、危うさは残った。(坂井広志)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース